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原口 慧子さん

高校の体育教師を定年退職後、フォークダンス教室を開く。以来多くの生徒にフォークダンスの楽しさを教え続け、サークルは地域の文化祭やフォークダンス大会などでダンスを披露している。2018年12月に教室開講20周年を記念してのパーティを開催。

「90歳までダンスを教える」
生徒との約束を守るために、
二度の手術とリハビリを乗り越えた

定年退職後、65歳でダンス教室を開く

『フォークダンス』と聞いて皆さんはどんなイメージが浮かぶだろうか。おそらく小中学校の運動会で踊るのんびりとしたダンスを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、原口慧子さんが講師を務めるフォークダンス教室を訪れて、10分でそのイメージは覆った。予想外に動きが早い。くるくる回転したり、弾むようなステップを踏んだかと思うと、踊りながらフォーメイションを変えていく。撮影しているカメラマンも、動きを追って汗をかくほど。しかも生徒さんは皆70代~80代だというから驚きだ。

「フォークダンスはシルバー世代にとてもいいんです。体はもちろん考える力が必要なダンスなんですよ」と原口さん。その言葉も見れば納得。音楽のリズムに合わせて右へ左へと向きを変えチームで呼吸を合わせ、振り付けの意味を考えながら全身で表現していく踊りである。相当な頭の体操になるにちがいない。

「踊りを間違えたっていいんですよ。間違えたことでまた頭が活性化されるんですから」と、瞳を輝かせてフォークダンスを熱く語る原口さんはとても80代には見えない。生徒の皆さんも踊るのが心底好きという様子で、長い人は教室の開講から20年間通い続けている人もいるという。皆さん疲れなどみじんも見せずに踊り、笑顔にあふれた和やかな雰囲気の教室だ。

こうしてダンス講師として活躍している原口さんだが、長い間膝の悩みを抱えていた。

「若い頃は高校の体育教師として働いていました。その頃いろんなスポーツをして膝に負担をかけたんだと思います。50代から左膝が痛かったんですけど、つらいなんて言っていられないからそのまま仕事を続けていました」

体育教師を60歳で定年退職し、フォークダンスと出逢った。誰もが退職後はゆったりとした生活を送りたいと思うものだが「フォークダンスこそ、生涯体育だと思いました」と、原口さんは新しい仕事に挑戦することを選んだのである。講師の資格を取って教室を開いたのは65歳のときだった。

「不思議と踊るときや生徒に教えるときは膝の痛みを感じないんですよ。好きなことだから無理をしたんですね」

 

74歳で右膝、84歳で左膝の手術を受けて

病院で診察を受けると変形性膝関節症と言われた。変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨が擦り減り痛みを生じるもので、年齢とともに膝が変形し悪化していく疾患である。原口さんも例外ではなく、やがてダンスにも支障をきたすようになった。はじめは左膝だけだった痛みも左膝をかばいつづけて無理をしたのか、右膝まで痛むように。通院していた病院に手術を勧められ、紹介されたのが福岡リハビリテーション病院(以下福リハ)だった。

「当時院長だった原先生は、私が体育教師をしていた高校の生徒だったんですよ。これも何かの縁かなと思いました」

そして、74歳で右膝に、84歳で左膝に人工膝関節置換術を受けたのである。

「私のここにはチタンが入っているんですよ」と、膝を指差し教えてくれた通り、人工膝関節置換術とは膝の悪くなった部分を取り除いて人工膝関節に置き換える手術である。変形した膝もまっすぐになり多くの人が膝関節の痛みから解放されている。しかし、一度ならず二度までも手術をすることに不安はなかったのだろうか。

「いいえ。一度目の手術で2か月リハビリをすれば仕事に復帰できるってわかっていましたから」と、質問したほうが圧倒されるほどキッパリと答える原口さん。

「福岡リハは、リハビリが素晴らしいですからね」

教室に戻れるのだからリハビリもつらくはなかった

人工関節置換術は、手術はもちろんのことリハビリテーションの技術が重要と言われている。同じ手術をした人がすべて同じリハビリで良いということはない。長い年月をかけて膝の痛みとともに過ごしてきた患者は、姿勢や歩き方などが一人ひとり異なり、それに応じて個々に適したリハビリテーションを行う必要がある。

「私のリハビリを担当してくださった理学療法士の先生は若くてとても勉強熱心な方でした。スムーズに動けないところは動けるように、どうしたら歩けるようになるのか一生懸命考えてくれました」と原口さん。

手術後のリハビリはどうしても痛みをともなう。つらくはなかったですかとたずねると「それは痛いですよ。でもそれが訓練というものでしょう。痛くても、先生から声がかかれば足を動かすんです。頑張れば頑張るほど先生は応えてくれますから」と力強い返事。

「理学療法士はとても素晴らしい職業だと思います。体を動かすということは生きることでしょう。それを支えてくださるのだから生の根幹に触れるお仕事ですよね」

患者と理学療法士の信頼関係は、回復の大きな力になる。この言葉を聞いた担当の理学療法士は患者である原口さんから逆に励まされ感激したに違いない。
原口さんがここまでリハビリに前向きに取り組めた理由は、ダンス教室の生徒とある約束をしたからだった。

「90歳まで教えると言ったんです。私を待っている生徒さんがいることがとても大きな励みになりました」

こうして、2か月の懸命なリハビリを経て退院。真っ先に訪れたのはやはりフォークダンス教室だった。生徒は原口さんの入院中も文化祭に向けて練習に励んでいた。

「文化祭の舞台も見に行きました。ああ、みんなしっかり踊れているなと思いました。私に見せたいと頑張ってくれたその気持ちが嬉しかったですね」

フォークダンスは支え合い、皆で作り上げるもの

膝の手術から約1年が経ち、今日も原口さんは生徒の前に立つ。教室の20週年記念パーティを間近に控え、練習にいっそう熱が入っている。その日は原口さんの教え子が一堂に会し、3時間のプログラムで踊るという。

70歳、80歳になれば、誰しも体のどこかが不調なこともある。それでも踊りたいという気持ちで皆この教室に足を運んでいる。昔は踊りを少しでも美しく見せたいと思っていたが、今の目標はちがうと原口さんは語る。

「足が上がらなくても、回れなくてもいいんです。その人が自分のできる動きで踊ればいい。フォークダンスは支え合い、手を取り合ってみんなで気持ちを合わせることがよろこびです」

原口さんが手を広げてポーズの見本をしめすと、その場が優雅に華やぐ。細かな動きを話し合い調整しながら練習を重ねるほどに、ダンスがみるみるうちに完成されていく。

「私たちの先生、とっても素晴らしいでしょう?」と、生徒の一人に声をかけられた。その微笑みはとても誇らしげで、原口さんへの憧れや尊敬が伝わってくる。

「手術前の膝が痛いときも生徒が支えてくれました。だから私も教室に立って指導することができました。先生のコール(掛け声)があれば私たちはいつでも踊れると言ってくれたんですよ。講師と生徒という垣根を越えてみんなでダンスを作り上げています」

季節が変わる頃、原西公民館で新たにフォークダンスの初心者体験クラスも始まるそうだ。原口さんはこれからもフォークダンスを通じて、人との絆、強く生きていく力を伝え続けていくことだろう。

取材協力

荒江団地集会所
フォークダンス教室
「オーロラ」

毎週火・水・木曜日
10:00~12:00

掲載日:2018年12月

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監修:福岡リハビリテーション病院