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福岡リハビリテーション病院 理学療法士 白瀧 敦子先生

同院勤続20年のベテランで、特に脳卒中後のリハビリには豊富な経験と専門知識を誇る。

後遺症の患者さんと家族を支える
「脳卒中リハビリチーム」とは

脳卒中は重い後遺症が現れることが多い病。
どのような治療やリハビリテーションを経て、生活や仕事へと復帰するのだろうか。
福岡リハビリテーション病院の理学療法士白瀧敦子先生にお話を伺った。
 
◎患者さんによって異なる、脳卒中の後遺症

 脳卒中は脳の血管が詰まったり破れたりして起こる病気です。脳梗塞・脳出血・くも膜下出血を総称して脳卒中といいます。
 人間の脳は司令塔の役目を果たしているので、脳が「動け」と指示すれば、脳~細胞~神経~筋肉へと司令がいって働き体を動かすことができます。しかし、脳卒中になると脳の細胞が損傷しこの司令がうまく働かなくなるため、重い後遺症が現れることが多いのです。
 主な後遺症としては、半身に力が入らなくなる運動障害(身体まひ)、体の感覚が鈍くなる感覚障害、言葉がでなかったり理解できなくなる失語症、食べ物や飲み物を上手に飲み込むことができなくなる嚥下障害、記憶力や注意力・行動力などに問題が起こる高次脳機能障害があります。脳の損傷部位によりこれらの症状が組み合わさって現れるので、同じ脳卒中でも症状は患者さん一人ひとり異なります。
 だからこそ、脳卒中後のリハビリテーションは、患者さんの症状に応じたオーダーメイドでなければなりません。
 福岡リハビリテーション病院(以下福リハ)では、多くの専門職がチームとなってオーダーメイドのリハビリを実現し患者さんの生活復帰を目指しています。

◎オーダーメイドのリハビリとは

 脳卒中リハビリチームは、脳卒中という病気に精通した多くの専門職がそれぞれの分野の知識や技術を活かし、患者さん一人ひとりの症状や目標に応じて最善と考えられる医療を提供していきます。
 患者さんやご家族の希望や目標を伺い、医師の指示のもとでリハビリ計画を立て、チームで協働して患者さんの生活復帰を目指していきます。リハビリテーションの目的は、体の機能をできる限り引き出すことや残された機能を強化して生活の質を高めることです。
 理学療法士は、座る・立つ・歩くなどの基本的な動作の回復や維持を支援し、作業療法士は食事や入浴など生活作業が行えるよう支援。言語聴覚士は、話すことや食べる機能に障害がある方を支援します。
 このような療法士が行う訓練だけがリハビリではなく、入院中のトイレや洗顔、食事など、一日の中で日常的に行う動作も大切なリハビリ。看護師や介護士が自宅での生活を想定して安全に行えるようサポートします。
 さらに、管理栄養士は患者さんの飲み込みや栄養状態を把握した上で食事の管理や指導を行い、歯科医師は口で食べられるように口腔内管理を行うなど、多くの専門職が常に患者さんの情報を共有して連携します

◎ロボットスーツを使ったリハビリ

 それでは、脳卒中リハビリチームの取り組みを具体的にご紹介しましょう。
 脳卒中の後遺症で多いのが運動障害(身体まひ)です。今まで自由に動かしていた手足が突然動かなくなる患者さんの辛さや不安ははかり知れせん。脳卒中リハビリチームは、患者さんの気持ちに寄り添い少しでも不安を和らげるよう努めながら、できる限り身体機能を引き出していきます。
 ロボットスーツHALⓇを使ったリハビリもその一つです。ロボットスーツHALⓇは、患者さんの手足に装着して立ち座りや肘の動きを補助するロボットです。
 脳が「動け」と体に命令すると生体電位信号が発生します。障害がなければ脳の命令通り体は動くのですが、脳卒中でまひになった場合は思うように動きません。HALⓇは体表につけたセンサーが生体電位信号をキャッチして、コンピュータ制御により各関節のモーターで力を増幅させ動きをアシストするのです。
 つまり、装着する人の意思に従った動作を支援する、画期的なロボットスーツなのです。身体機能を向上させるだけでなく、患者さんのリハビリに対するやる気を上げるなど心理的なサポートにもつながっています。
 

ロボットスーツを着用した階段の上り下りの訓練

 
◎「仕事したい」「運転したい」希望をチームで支援

 脳卒中の後遺症は身体的な障害だけでなく、注意力や集中力の低下、予定を立てて行動することができないなど、外見ではわからない症状がでる高次脳機能障害があります。
 福リハでは、高次脳機能障害がある方の社会復帰を支援するため、目標に応じたチームを結成しています。その一つが仕事を希望される患者さんのための「就労復職支援チーム」です。
 元の職場への復帰や再就職など患者さんによって状況はちがいますが、どのような仕事ができるか、どのような仕事が難しいかを見極め、医師と作業療法士、言語聴覚士がリハビリ計画を立案。復職を目指し、今ある機能を強化して能力を補えるようにリハビリを進めます。
 さらに今後は、就労を支援する公共機関や福祉制度のご案内なども行い、患者さんがより円滑に復職できるようサポートしたいと考えています。
 また、車の運転を続けたいという方には「自動車運転再開チーム」が支援します。テスト形式の神経心理学検査とドライブシミュレーターを使用した検査を行い、その分析結果から運転の適性や訓練が必要な部分を診断してリハビリプランを立て、実践します。 

 

模型を使って、筋肉のどこに注射を打てば痙縮(けいしゅく)に効果的かを説明する白瀧先生

 

◎手足のつっぱりにボツリヌス療法

 脳卒中発症からしばらくたつと筋肉が緊張してつっぱり、手足が動きにくくなる状態を「痙縮」といいます。痙縮があると着替えや入浴など日常に不便を感じ、痛みに悩む方もいます。
 この痙縮には、薬を筋肉内に注射して緊張をやわらげる「ボツリヌス療法」とリハビリを併用します。 
 注射は、患者さんの症状に合わせて的確な筋肉の場所に打つ必要があります。福リハでは、筋肉と関節の動きに精通した理学療法士がボツリヌス療法に参加。筋肉の箇所を確認し、エコーを見ながら医師が針を刺し、針に電気を流して筋肉の動きをみてから注射をします。
 福リハはボツリヌス療法の件数が多く、注射で筋肉をほぐした後にリハビリをした患者さんから「手で物がつかみやすくなった」など、喜びの声をいただいています。

◎不安が大きいご家族の支援も大切

 ここまでは、患者さんの支援を中心にお話をしてきましたが、脳卒中リハビリチームは患者さんのご家族の支援もとても大切だと考えています。
 大切な方が突然脳卒中になった時、ご家族の不安は非常に大きなものです。ご家族のお気持ちや負担を少しでも軽くできるよう努め、ご相談に応じています。
 福リハでは、脳卒中という病気の理解を深めて退院後の生活に役立てていただこうと、定期的に「脳卒中教室」を開いています。内容は、再発の予防・介護サービスや福祉用具の活用・家族同士での交流会など。教室で話された不安や心配はチームで共有し、実用的なことだけでなく心のケアにも配慮した教室です。
 また、退院後の生活を考えて、ケアマネージャーや訪問リハビリスタッフが入院早期から関わり、患者さんの病状を把握した上でご自宅の手すり取り付けや段差の解消をご提案し、実際の生活場面に応じた介助方法もご指導します。
 患者さんとご家族は、脳卒中リハビリチームの一員であり主役です。皆さんが笑顔で生活を送っていただけることを願って、チーム一丸で取り組んでいます。

 

取材協力

福岡リハビリテーション病院

092-812-1880
福岡市西区野方7丁目770
http://frh.or.jp

※掲載の記事は、掲載日時点での情報となります。掲載されている、施設名、お名前、役職等、また、医療情報等は当時の情報となります。

掲載日:2019年05月

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監修:福岡リハビリテーション病院