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福岡リハビリテーション病院 歯科部長 平塚 正雄先生

【専門】高齢者歯科、障害者歯科、歯科麻酔
・日本障害者歯科学会 《指導医》・日本老年歯科医学会 《専門医》《指導医》
・日本歯科麻酔学会 《歯科麻酔専門医》・日本摂食嚥下リハビリテーション学会 《認定士》
・歯学博士

歯科疾患は生活習慣病。
「生活支援」につながる正しい口腔ケア

福岡リハビリテーション病院(福リハ)の歯科では、一般的なイメージの歯科とは違い、「高齢者歯科」「障がい者歯科」に力を入れています。
院内の患者さんはもちろんですが、車椅子だったり、持病があったりして歯医者に通いにくい方たちが来院しやすいようにさまざまな設備が整っています。

具体的に、高血圧症や心臓病、脳卒中後遺症などの疾患により全身への配慮が必要な高齢者の歯科治療や、障がいのある高齢者への歯科的支援を専門的に行うのが「高齢者歯科」です。

そして、精神遅滞、自閉症、脳性麻痺、脳卒中後遺症などのさまざまな障がいのある方の歯科治療や、障がいの特性や発達レベルに合わせた行動療法などを用いて患者さんが治療を受け入れるトレーニングを行う「障がい者歯科」です。
治療に入る前には必ずお薬手帳と、かかりつけの病院を確認し、場合によっては血圧や心電図などをモニタリングしながら治療を行います。

◎歯医者さんに対する認識を見直そう

歯医者さんは「痛くなってから行く」場所だと思っている方が多いと思いますが『それでは遅い』のです。実は、ムシ歯や歯周病などの歯科疾患は、すべて生活習慣病として考えられています。

ムシ歯は、食事や間食の内容、唾液の量などが関係していますし、歯周病は喫煙やストレスなど、さまざまな要因が重なり合って発症します。また、どちらも自覚症状がほとんどなく、痛みや症状が現れた時には、すでにある程度進行してしまっていることがほとんどです。
さらには、歯周病が悪化すれば体内に菌が入り、心筋梗塞や脳梗塞など全身的な病気につながることもあります。つまり、生活習慣を見直すことで、歯科疾患の予防が可能なのです。歯医者さんは「治療」ではなく主に「予防」する場所だと認識しましょう。
「予防歯科」といっても、発生予防だけが目的ではありません。歯科疾患になってしまった場合でも、進行具合などによって正しい治療をほどこし、よりよい状態に戻すことも含まれます。

口の中の健康を守るためには、生活習慣や口の中の状況を歯科医にしっかり把握してもらうことが大切です。そのためにもかかりつけの歯医者さんを見つけましょう。そして、しっかり歯科医と相談し、どのくらいのペースで通うのがベストなのか、どういう治療が合うのかを探っていくことが「予防歯科」のスタートだといえます。

◎福岡リハビリテーション病院ならではの予防歯科と治療

では、予防歯科という認識を持つことが難しい高齢者や障がい者の方たちはどのように予防、そして治療していけばいいのでしょうか?
当然ですが、まずは来院していただくことです。それにはご家族の協力が絶対的に必要になります。本人が上手に意思を示すことができない分、ご家族の方が進んでケアする意識を持つことが大切と言えます。

歯科医は治療に入る前に、患者さんが口をしっかり開けられるかどうか、歯ブラシを拒否しないかどうかなどをチェックします。口が開けられない(拒否)場合には、まず歯ブラシを口に入れる感覚を覚えてもらうためのトレーニングを行う必要があります。徐々に慣れてきたら、歯科医が使う専用の歯ブラシを使ってトレーニング。振動を与えたりしながら「痛くないんだ」ということをわかってもらいます。家で実践していただけるよう、同時にご家族の方にも歯磨きの指導をします。
治療が必要な場合は、歯ブラシに慣れたのちに実際に歯を削る機械を口の中に入れて、シミュレーションしながら治療に進みます。そのように、患者さんひとりひとりの状況を見ながら、とことん向き合っていくことが大切なのです。

また、高齢者や持病がある方の場合は、お薬手帳とかかりつけの病院をチェックしたのち、脈拍や心拍数などを確認。そして、場合によっては、歯科麻酔医が血圧、心電図、呼吸状態などのモニタリングや、点滴による鎮静薬や鎮痛薬の併用を行いながら治療を行います。ストレスや痛みなく治療を行うことが何よりも重要だと考えています。

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◎口腔ケアは健全な生活に直結

「食べる」ことは、生命維持において、とても重要な行為です。しかし、認知症や、脳卒中になってしまった場合、「食べる」ことができずに体が弱ってしまうことがあります。

認知症の場合は、食べることを拒む食事拒否や、上手く飲み込むことができなくなる、食べ物を食べ物と理解できないなどといった症状が見られることがあります。その場合、まだ食べることを知らない赤ちゃんと同様に、口に異物が入ることに慣れる、そして舌を上手に使うトレーニングが必要になります。赤ちゃんは、指しゃぶりをして、舌や頬を使って食べ物を歯の上に乗せる感覚と運動を学習しますが、認知症の場合は、口腔ケアを行います。やわらかいスポンジブラシを指しゃぶりの代わりに口に含ませ、口の中で舌を使って遊ばせるように自由に転がしてもらいます。そうして異物が入る感覚、噛む感覚を取り戻していってもらいます。

脳卒中の場合は、他の病院で手術を受けられた患者さんが、リハビリのために福リハに訪れます。福リハでは、脳卒中そのものを治すことはできないけれど、障がいを改善し、社会復帰をサポートするお手伝いをさせていただきます。そこでの歯科の立ち位置は、やっぱり「生活支援」なんです。入院中は、私たち歯科医と歯科衛生士が直接ケアを行うことができますが、退院後も引き続きケアは必要になります。場合によっては訪問して行うこともひとつの手段ではあるのですが、入院中に家族の方にも状況を説明し、正しい口腔ケアをしっかり覚えてもらうようにしています。そうすると、家でもスムーズに行うことができます。

口の中の健康が維持できると、自分で噛むことができますし、より充実した食生活を送ることができるようになります。食事をすることは、健全な生活の第一歩、つまり健康寿命を延ばすことにつながります。

◎フレイルとサルコペニア

日本の健康寿命は平均寿命よりも、男性約9年、女性で約13年短く、介護を必要とする期間が長いといわれています。その原因は、脳卒中もしくは老衰がほとんどなのですが、特に前期高齢者(65歳~74歳)の場合は脳卒中が多く、後期高齢者(75歳以上)の場合は、フレイルが原因だといわれています。

フレイルの原因としてあげられるのは、うつ傾向になってしまう《社会参加の欠如》、筋力低下などの《身体面における老化》そして、ムシ歯や歯周病などの《歯科疾患》があげられます。歯科疾患?と疑問に思うかもしれませんが、歯や歯茎が痛むことによる食欲不振や、固いものを噛むことができないなどの理由で食事が偏り、栄養の不足につながってしまうのです。栄養が十分に摂取できないとなると、自然と筋力が低下し、健康な体を保つことができないという悪循環に陥ってしまいます。

そして、フレイルの原因の中にサルコペニアがあります。
具体的には、筋力の低下、筋肉量の減少のことを指します。食べ物を噛むことは、想像以上に筋力を使います。1回噛むごとに、歯茎には体重と同じくらいの負担がかかるといいます。「最近固いものが噛めない」という患者さんの中には、筋力の低下により、入れ歯が合わなくなっている方がたくさんいます。その場合は、入れ歯と歯茎の間にやわらかいクッションのようなものを敷いて、食べやすくしてあげます。そうして調整していくことで、また食事ができるようになり、筋力の増加にもつながるというわけです。

フレイルやサルコペニアは歯科の面からも改善のお手伝いができます。口の中を健康に保ち、食事ができる環境を整えることが、健康寿命を延ばすことにつながるのです。

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掲載日:2017年02月

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監修:福岡リハビリテーション病院